任意捜査の限界
「任意捜査であるからと言って有形力の行使が全く許されないわけではない。強制手段にわたらない程度の有形力の行使であれば、必要性、緊急性を考慮して相当と認められる限度において許容される」「警察官職務執行法は、行政警察作用の一つとして、職務質問を規定している(同法2②)。すでに発生した特定の犯罪について、その証拠を収集、確保し、犯人を特定、確保するために行われる刑事訴訟法上の司法警察作用と異なり、未だ犯罪が行われていない段階においても、また、犯罪捜査の対象としうる程度に犯罪事実や犯人が明らかになっていない段階においても一定の要件の下に許されるものである」(「新版 条解刑事訴訟法」)
夜中の十二時近く、電話のベルが鳴った。
知り合いが職務質問を受けて、覚せい剤使用の疑いで警察署に連れて行かれたが、連れ戻せないかという相談だった。
警察署に行った僕は、本人に会って、「ここに居続ける気はあるか?」と聞いたら「帰りたい」という。
警察官に「札はでているか?」と聞くと「まだ」という返事だったので、「じゃ、帰ろう」とその人の手を取って1階に降りようとすると、警察官は、「ちょっと待って。もうすぐ強制採尿令状が出るから」と言った。
「引き留めるなら、今令状見せて」僕は言った。
8人の警察官にかこまれて、エレベーターに乗ってもドアを閉められないようにされ、なんとかエレベーターの扉を押さえている警察官をどけてエレベーターで玄関フロアーまで降りて僕のバイクの後ろに本人を乗せて帰ろうとすると、真後ろには警察官が仁王立ち、前には警察官が前輪の後ろ部分に足を置きバイクが動けないようにした。僕がバイクのエンジンをかけると、警官がエンジンキーを回してエンジンを切った。
警察官は「この人は覚せい剤の前科が8回もある」「やっていると言っているのだから帰すわけにはいかない」といい、「連れて帰る根拠は何ですか」とまで言われた。令状が出てないからだと僕が言っても「道理が通らない」「弁護士だったら社会正義の実現のために働きなさい」と警官は僕に教えを垂れた。
本人は「もういい。歩いて帰る」と言ってバイクを降りて歩きだしたが、二人の警官に洋服の右肩部分と左手の二の腕をつかまれ、警察署の敷地から出られないように引っ張られていた。
そうこうしているうちにパトカーがサイレンを鳴らしながら玄関前に滑り込み、本人と僕に強制採尿令状を示したので、抵抗をやめた。
で、病院に連れて行かれ強制採尿されたそうで、尿からは覚せい剤反応が出たそうで逮捕、勾留された。
僕は弁護人にはならなかった、証人になるのが僕の役割かなと思ったからだ。
弁護人には、市民派で有名な池袋市民法律事務所の弁護士が当番で選任された。
僕は検察官に呼ばれ、病院への連行にいたる30分間に僕が見たこと聞いたことを話した。
本人は、2勾留の満期に、不起訴で釈放された。覚せい剤の陽性反応が出ているにもかかわらず、であるから、違法捜査だったと検事も考えたのだろう。
こういう事件との関わり方もある。
悪い人をなぜ弁護するの、と子どもは聞くし、妻は法学部を出ているくせに、さらには刑事訴訟法のゼミ出身のくせに、弁護人の仕事を全否定するような人だから、話す気もないけど、釈放されたと聞いた時は、夜中にバイクで高速を飛ばして出かけて行って良かったと思った。