花泥棒
「プール・サイドには、人がいた。
デッキ・チェアーに寝そべっている。初老の男だった。眠ってはいない。へいの上で花を摘んでいるロコ・ガールの姿は、もちろん見えるはずだ。
が、その初老の白人は、何もいわない。くわえたパイプに、火をつけている。
『1つだけ、きいてもいいかい』
へいの下から、僕は言った。
『なあに?』
彼女は、プルメリアを摘む手を休める。へいに坐った。
『中に人がいるのは、見えるだろう?』
『ええ、見えるわ。白人のおじいさんね』
『花泥棒が、自分の家のへいで仕事をしているのに、彼はなぜ何もいわないんだい』
『あら、知らなかったの?きょうはレイ・デイよ』
『レイ・デイ?』
『そうよ。毎年、5月1日は、ハワイではレイ・デイなの。みんな花を編んだレイを首にかけて、パーティーにいったり、デートをしたりね』
『へえ。知らなかった』
確かに、きょうは5月1日だった。
『で、レイ・デイには、花泥棒をしてもいいことになってるのよ』
なるほど。それで、へいの中のじいさんも、何もいわないわけか。
『いつから、そうなってる』
『ずっと前から。私が生まれたときは、とにかくそうなってたわ』
ロコ・ガールはそういって微笑う。また、プルメリアの花を摘みはじめた。」
(喜多嶋隆「プルメリア泥棒」)
メイ・デイはシュプレヒコールがうるさくてかなわないけど、ハワイは平和でいいなー。